抗凝固剤ヘパリンについて

ヘパリン(非分画ヘパリン)

(UH:unfractionated heparin)

 

平均分子量:15,000~18,000
半減期:約50分(30分~2時間に分布する)
作用機序:アンチトロンビンⅢ(AT-Ⅲ)を活性化し,ⅩⅡa,ⅩⅠa,Ⅸa,Ⅹa因子,トロンビン等の凝固因子を抑制
測定:ACT法がベッドサイドモニタとして最も一般的
ふるい係数:1.0
荷電:陰性荷電

〔追記〕グルコサミン,ウロン酸からなる多糖類を骨格とし(硫酸ムコ多糖類),単一物質ではないので,その平均分子量は15,000~18,000で,分子量分布は3,000~30,000と広い範囲に分布しています。

 


利点
  • 強力で安定した抗凝固作用
  • 中和剤がある。
  • 即効性があり,半減期が比較的短い
  • 安価
  • 凝固時間測定が容易(ACT法:活性化全血凝固時間)

 


問題点

・凝固時間の延長による出血の増悪

強力な抗凝固能は体外循環内だけでなく体内循環まで抗凝固してしまう。ヘパリンは適正なACT管理でも高率で出血傾向を発症するとされています。

 

・アレルギー反応

現在使用されているヘパリンは哺乳類動物からの抽出物であるために,頻度は低いが使用している患者の中にはじんま疹,鼻閉,喘鳴などのアレルギー反応やアナフィラキシー反応が出現することがある。

 

・陰イオン交換樹脂や陽イオン膜への吸着

ヘパリンは陰性荷電しているため,交換樹脂や陽イオン膜などへの吸着があるため,抗凝固効果が期待できなくなる。またLDL吸着カラムを用いた血漿吸着療法を行う場合,血漿と陰性荷電の強い吸着材との接触によりブラジキニンが増加する。ACE阻害薬ブラジキニンの分解が抑制されるとアナフィラキシー様ショックを呈する危険性がある。

 

・凝固作用以外の作用

①脂質分解作用

ヘパリンの長期的な使用により脂質分解作用がアポ蛋白異常をもたらし,血中HDLコレステロールレベルの低下をもたらす。

 

②血小板活性化作用

ヘパリンは血小板に対しては抑制よりは刺激作用をもち,結果として血小板凝集を亢進させ白色血栓を形成し,血小板機能異常や体外循環内残血亢進を招来させる。

 

③骨脱灰作用

カルシウムイオンと高い親和性をもち,長期間使用すると骨のカルシウムが溶け出し,骨粗鬆症の発症するとされる。

 

④アンチトロンビンⅢの欠乏(枯渇)

ヘパリンの抗凝固作用はAT-Ⅲを介することから長期透析患者ではAT-Ⅲの枯渇を招く。アンチトロンビンⅢの低下は,ヘパリンの抗凝固作用が発揮できなくなる。

 

⑤掻痒症

皮下にヘパリンを注射すれば局所の掻痒を引き起こしうる。よって,ヘパリンの使用による掻痒症なのか,もしくは尿毒性物質によるものかなどについては説明は難しい。ただし,透析中の掻痒や他のアレルギー性反応の原因となりうることが想定できる。

 

⑥高カリウム血症

ヘパリンによりアルドステロン合成が抑制されて,高K血症をきたすことがある。

・・・など

 


抗凝固の指標に用いられる凝固時間測定法
  • 活性化部分トロンボプラスチン時間(APTT)
  • 全血部分トロンボプラスチン時間(WBPTT)
  • 活性化凝固時間(ACT)
  • Lee-White凝固時間(LWCT)
  • 第Ⅹa因子活性化ACT

 


注意する点
  • アンチトロンビンⅢ欠乏症やヘパリン起因性血小板減少症(HIT)などは非適応となる。
  • 陰性荷電されているため,イオン結合による吸着材を使用する場合は吸着される。
  • ふるい係数が1.0であることから,血漿濾過量が多い場合はヘパリンの除去率が高くなる。

HITについて補足

HITは1型と2型に分類される。

1型HIT 血小板の減少は時間と用量に依存して起こり,ヘパリン使用量を減らせば回復するといわれている。

2型HIT 血小板の凝集が起こり,血小板減少に矛盾するような同静脈血栓症が起こる。ヘパリン-血小板第4因子複合体に対する免疫グロブリンG(IgGあるいはIgM抗体)の産生により,発症しブタよりウシのヘパリンで起こりやすいといわれている。日本ではウシのヘパリンは市販されていないので議論とされない。ELISAにて評価する。